ゲージュツの秋

北海道立近代美術館。車で行くと、駐車場を探すのに苦労する。

芸術の秋。ということで美術館に行ってきた。今、道立近代美術館で「ゴッホ展」を開催している。「巡り行く日本の夢」と題し、ゴッホが夢見ていた日本と影響を受けた浮世絵との関係を紐解きながら作品を紹介している。北斎や広重の浮世絵も展示されていて、一粒で二度おいしい構成が魅力だ。
知らなかったが、ゴッホの日本への憧憬の所為であろうか、明治・大正・昭和にかけて、ファン・ゴッホ終焉の地オーヴェールに次々と日本人が巡礼に訪れ、芳名録に言葉や絵をたくさん残していた。そうした事実と資料を二部「日本人のゴッホ巡礼」として紹介している。
「・・・それは時空を越えて巡った夢の物語、日本の夢の生成と転生の物語と言ってよいでしょう。(中略)本展覧会は6年にわたる準備期間をかけ、アムステルダムのファン・ゴッホ美術館のスタッフたちとも綿密な打合せを重ね、世界各地のコレクションと交渉しながらつくりあげた展覧会です。(中略)新しい知見や情報が数多く盛り込まれた学術的価値の高いものになります。」(総合監修者からのメッセージより引用)ゴッホがとりわけて日本人に人気があるのも、この展覧会を見て納得できた。ゴッホが夢見ていた日本は、実際とは異なるものであるところも多々見られるが、日本人として悪い気はしない。

2時間近く観て回ると目も腰も疲れる。特に館内は薄暗いので、小さい文字がよく見えない。双眼鏡を持っている人がいて、そうだ、この手があったと知る。
ゴッホが影響を受けた日本を紹介する小さい書籍も展示されていたが、その中身を見たいと思っていたら、壁にプロジェクターで映し出されていた。こうした試みも鑑賞する側には満足感を与えてくれてありがたい。珍しいことではないのであろうが、あまり美術館に行かない僕には他の展示のことはよく分からないけど(笑)。

ゴッホが描いた夾竹桃。北海道では見かけないが、僕の知っている夾竹桃のイメージとはちょっと違う。夏の暑い盛りに、幹線道路でたくましく咲いているというのが、僕にとっての夾竹桃。

二部の日本人の巡礼記事に関しては、これでもかというくらい多方面から集められ紹介されていた。その中に、斎藤茂吉の短歌もあった。彼もゴッホファンであったようで、オーヴェールを訪れている。精神科医でもあったわけで、何か因縁を感じずにはいられない。式場隆三郎医学博士の「ファン・ホッホ(ママ)の生涯と精神病」という分厚い(厚さ7センチ)書籍2巻が展示されていたのにも驚かされた。

ゴッホの断片作品やスケッチ、手紙などを手掛かりにして、“幻の作品”と言われている「恋人たちのいるラングロワの橋」を復元する試みもあって、これもなかなか興味深い展示だった。その絵はひと際明るい色で描かれていて、ゴッホの本来の好きな色彩は、はたしてどうだったんだろうという思いに至る。
こういうことができるなら、小説でも、例えば未完で終わった池波正太郎の「梅安シリーズ」や「鬼平犯科帳」を、引き継いで書いてくれる人が誰か現れないかあ、なんて関係ないことを薄暗い館内で思ってしまった。

ゴッホ展は、本当は平日に行きたかったが土曜日になった。テレビでも紹介されていてそれなりに混むだろうと思っていたが、予想を超える混雑ぶりで、比較的空いているだろう午前中を狙って行ったのは、かえって失敗だった。入場券を買うのに30分近く並んでしまった。帰りしなにチケット売り場を振り返ると、意外と空いていたのだ。

多分、朝方はもっと混んでいたのかも知れない。前日には10万人突破とニュースになっていた。10月15日の最終日には、とんでもない混雑が予想される。この後、東京、京都で開催されるとのこと。札幌でこうだから、他はもっとすごい混雑になるだろう。