伊豆半島、迷曲の旅

戻るに戻れない天城越え

下田の旅館で目が覚める。雨は止んでいて、白浜にはサーフィンを楽しむ姿も見える。晴れそうだ。この調子なら、どこにでも行ける(と、このときは思っていた)。

今日の予定は、下田を観光して熱海へ行く、という超ざっくりしたプラン。協議の結果「天城越え」というルートになった。

少し前に、某テレビ局の番組で天城トンネルが紹介されていた。そんな影響があったからかも知れない。いや、やっぱり石川さゆりの歌の影響が大きいかな。僕たち世代は、GS、フォークソングをメインとしつつも、アイドル黄金期。いわゆる天地真理に始まり中3トリオ、その陰に隠れていた石川さゆりもしっかりカバーしていた。天城越えは、鼻歌としてはチョイと難しいが「津軽海峡冬景色」はザックリと歌える。竜飛岬にも行って来た。ついでにいえば能登半島にも行った。

「天城越え」は、不思議な曲だと思う。以前はそれほどの歌だとは思わなかったが、今は日本歌謡曲史に残る名曲ではないかとさえ思う。ベタな演歌と思いきや、その世界を超えている。その証拠に多くの歌手がこの曲を好んで歌い、いろんなジャンルの音楽家が取り上げている。ロックギタリストがこの曲をカッコよく演奏するコラボは今でも心に残っている。

下田方面から、ループ橋を越え、途中から天城隧道(旧天城トンネル)に向かう旧道に入る。ここからは砂利道の一車線。さらにどんどん道が狭くなる。伊豆の踊子にある九十九折りの道。ワンボックスカーがやっとの道幅でありながら双方向通行というのが厄介だ。前方から車が来ないことを念じながらハンドルを右へ左へと切るのだが、やっぱりたまに車が来る。カーブで前方が見えないから、お互い譲り合いながら車を脇へ寄せるのが基本。僕たちの進行方向の左側は多くが崖だから、できるだけ譲ってほしいのだけど、グイグイくる車がいて困った。バックで避難できそうな場所を探す。慣れない車だから崖っぷちは怖い。先が分からない狭い山道。いつまで、どこまで続くのか、と不安になる。ここまで来たら折り返すのも怖い。「戻れなくてももういいの くらくら燃える地を這って」 頭の中を曲が流れる。はやくこの道を越えたい。もう後には戻れない。そんな気にさせる天城越え。皆さんにはあまりおすすめできない名所だ。

下田方面から天城峠に向かう途中にある2回転するループ橋(七滝高架橋・ななだるこうかきょう)

下田側。丁度今、車が反対側に走って行った。

僕たちが通った旧道は、狭い道を長い距離走る道だったが、途中で出たり入ったりする近道があって、それほど怖い思いをする必要はなかったと、随分走ってから気が付いた。反対側(修善寺方面)からだと、すぐに国道に出ることができた。

まぼろしの「わさび丼」?

国道(下田街道)に出て、少し下って行くと「天城越え」という道の駅があり、わさびの里と謳っている。わさびを土産にでもとわさび専門店を覗いてみる。ちょっと小腹が空いていたので、わさび丼ってありますか?と聞くと、驚いたような、呆れたような顔をされた。「そんなものは自分の家で食べてちょうだい」ということらしい。ちなみに「わさび丼」とは、ご飯にかつお節とすりおろしたわさびを乗せ、そして醤油をかけるだけのもの。以前、テレビで見てとても美味しそうだった。この地区の名物料理だと思っていたが、違うらしい。

気を取り直して辺りを見るとソフトクリームののぼりが2か所で出ていた。どうやら店によって味が異なるようだ。1軒は薄いメロンのような色のソフト。もう1軒は、何とソフトクリームにおろしたままのわさびを突き刺さるように乗せただけのもの。これがうまいのか? 気になったので両方を味わってみることにした。わさび色の方は、甘い中にほんのりとわさびの香りで、これはこれで良し。さて、もう一方のソフトはというと、予想通りというかそのままの味。面白いけれど、もうちょっと工夫がほしいなあ。

天城越えの道の駅から、さらに下ると観光スポット「浄蓮の滝」。東京から来ていた修学旅行生と一緒になり、ぞろぞろ歩くことになる。