大晦日を高野山で迎える

高野山で年越しを迎えることになった。高野山は二度目の訪問、前回は4月だった。(前回:https://namichannel.com/my-blog/850/ 参照)今回は大晦日の訪問、特別感があってちょっと緊張する。そもそも大晦日の高野山というと、紅白が終わってちょっと間ができたテレビからゴーンという鐘の音が聞こえ「静かに雪の降る高野山からお届けします・・・」なんていう「アレ」の場所ではないか
大晦日に相応しい場所というと「平泉」や「永平寺」「延暦寺」など思い出されるが、その中でも高野山は特別な聖地と思える。ということで、久々にワクワクしながら迎えた大晦日を紹介したい。

大晦日当日、目的地の高野山は思いのほか遠い。昼過ぎに関空に着いてすぐに電車に乗車したにも関わらず、高野山に近くなったころには薄暗くなった。標高が1,000メートル近くあるので想像していたよりも気温が低い。
計画当初、橋本駅から電車を乗り継いで極楽橋駅へ。さらにケーブルで高野山に行くつもりだったのだが、あいにくケーブルが改修中。でしばらく運休ということだった。高野山への道のり、九度山や極楽橋付近の車窓を楽しみにしていた。ケーブルにも乗りたかったけれど叶わず、少々心残り。今回は橋本からの代替えのバスを利用することにしたので、乗り換えなどで随分と時間が掛かってしまった。

バスはくねくねとカーブの多い山道を通る。道幅が狭く、ほぼ一車線に近い道だった。バスは徐行して対向車と慎重にすれ違うことになる。登り口ではまったく想像できなかったけど、標高が高くなるにつれて地面に白いものが見えてきた。高野山の入り口、大門に着く頃には、夏タイヤではとても無理な雪道の景色に変わっていた。(実はレンタカーでの移動も考えていたが、スタッドレス車を確保できなかったのだ)

大門付近で地元の路線バスに乗り換え、千手院橋という交差点でバスを降りる。宿坊協会や食堂、土産物屋があるので、この辺りが中心になる。金剛峯寺もすぐ近くだ。辺りが暗くなり、寺々に灯りが点いて風情満点。観光客がたくさん来ていると想像していたが、意外なことに全く見当たらない。今日は特別な日ではないのだろうか、とても静かだ。

予約した宿坊までは10分程度歩く。途中、普賢院の「なまこ塀」が鮮やかに映る。その先には無量光院という宿坊があった。どこの門にも大きな提灯が掛かっている。無量光院の提灯は右と左の模様が違っていた。左側の提灯といえばどこかで見たことがある。え~っと確か織田信長の家紋?かな。右の家紋はどこのだろうか?よく分からない(あとで浅野家の家紋と知る)。そこからさらに暗い道を行くと信号があって古い建物と灯りが見える。なんと、これが交番だった。正式には「高野幹部交番」といって国の登録有形文化財であるらしい。交番といってもお寺のような大きな建造物。あいにく室内はよく見えなかったが、制服のおまわりさんが座っているようにはとても思えなかった。

さらにしばらく歩くと「蓮華定院」に着く。ここが今夜の宿坊。提灯を見れば誰もが分かる「六文銭」の家紋。関ケ原の戦いで敗れた真田昌幸、信繁親子がここに滞在していた場所だ。
受付を済ませ、部屋に行くまで長い廊下を通るのだが、とても寒かった。基本的に宿坊は一般客が泊まれるが修行中の僧侶の施設であるので、どこもかも開けっ放し。廊下といっても外と同じでとにかく寒い。僕は、見所の庭を見る際も食事で広間に行く際もダウンを着て歩いた。この夜から朝にかけてはマイナス7、8度だったと、朝のお勤めの際に住職が話していた。雪の札幌から来たけれど、寒いものは寒い。

雪の残る庭は、どこも手入れされていて綺麗だった。宿坊のもう一つの楽しみである精進料理の夕食。どれも見た目も美しくおいしかったので大満足。お酒も飲めるので言うことなし。機会があれば、ぜひ宿坊を体験してもらいたい。ホテルでは味わえない楽しみ方ができる。それでいてとてもリーズナブルだ。蓮華定院は、中心からは少し離れていて少々不便であろうか。部屋数も少なく豪華でもない。年末年始ということで、今回の宿泊料は通常よりは少し高かったが、ここは他の宿坊と比べても良心的な料金だったと思う。部屋も広く、清潔だった。高野山の宿坊はたくさんあるが、静かな佇まいが好きで静かに泊まりたいなら、ここをお勧めしたい。もちろん真田ファンなら言うまでもない。

食事を終え風呂に入ってから、年越し行事のある金堂周辺を散歩した。やはり静かだった。関東と比べて関西のお寺の大晦日は派手には迎えないのだそうだ。その中でも、高野山は最も静かであると言う。宿もなかなかとれなかったし、前回は外国人で溢れていたので、ちょっと肩透かしだった。外国人もほとんど見かけない。
初詣に付き物の屋台はなかったが、金堂に向かう途中で年越しそば、中門の近くでお酒の振る舞いがあった。どちらも地元の青年団(?)の仕切りであるようで、混雑するほどでもなく、しっかり戴くことができた。午後9時頃、御幣納めがあるというので龍光院へ行ってみる。「毎年、暮れの31日、弘法大師のかつての御住坊、龍光院様から伽藍御社へ、御幣と松明が奉納され、旧年中の無事を感謝し、翌年の五穀豊穣を祈願する行事である」(高野山金剛峯寺 facebookより)
御幣は、束にしたハゼの木を奉書紙や稲穂などで結んだもので、燃え盛る大きな松明を先頭に、僧侶と一緒に列をなして練り歩くことができる。

いいかげん身体が冷えてきて、明日も早いので除夜の鐘が鳴る前に宿坊に戻ることにした。除夜の鐘は布団の中で聞くことにしよう、と思ったが、目が覚めたら2019年になっていた。